クリームソーダ越しの恋人

  ひんやり冷たくて、爽やかに甘ったるくて、しゅわしゅわは一瞬むせ返るほどだけど、やっぱり甘くて酸っぱいような気もする緑は溶けるように甘い液体に戻って行く。

決してメロンの香りはしないあの緑の上にちょこんとバニラの高貴なアイスクリーム、または安っぽい軽い心地のアイスクリーム、または油っぽいふわふわホイップクリーム

そしてそれらの上にちょこんと居座るのは一番小さいくせして主役顔の真っ赤なおもちゃみたいなさくらんぼ。たまにミントも一緒に乗っていたりして。

この世にいろんなクリームソーダはあれど、私の思い描くクリームソーダはこんな感じ。

高級なシェフの手の込んだ見た目も味もこの世のものとは思えないほどのフレンチ料理のデザートよりも美味しいかと言われたら、決してそんなことはない。

それでも私はクリームソーダが大好きだ。最期の食事にクリームソーダを飲みたいかと言われたらわからない。でも、私は喫茶店に行けば必ずクリームソーダを頼む。クリームソーダの儚さは悲しくなるほど美しい。

 

  ところで私は自分の容姿に恐ろしいほど自信がないから、「私は、絶対美少女なんだから!」という気持ちで常に生きている。自分の容姿を他人と比べられると泣き叫んで暴れたくなるし比べた相手と比べられた相手を罵倒したくなる。

 私がこう考えるようになったのは、恐らく自分の容姿を貶められながら育ってきたからだろう。妹はお目目がぱっちりクリクリしていて綺麗な平行二重で、鼻も上品に小さくて、唇もちょこんとピンクで整っていて、ちょっとふっくらした頬が健康的で、髪の毛はふわふわくるくるフランス人形みたいな少女であった。対する私は日本人形のような少女であった。どこに言っても「可愛い妹さんね」「お姉ちゃんとは雰囲気が全然違うね似てないね」と言われてきた。幼い私は傷つくこともなく、自分の容姿に興味はなくて、ただただニコニコ笑っていた。しかし、いつからか私の性格はいびつに歪み始め、ニコニコ笑顔がニヤニヤ笑顔になり、ダークサイドに堕ちるベイダー卿さながらに完全にあちら側の女になってしまったのだ。

そこから私のコンプレックスは爆発して暴走して「鏡よ鏡!世界で一番美しいのはだあれ?」が始まったのです。

最初は異常なほど顔面を覆い隠して自分で自分を蔑んでいたが、だんだんと「私は可愛い!私は絶対美少女なのである!」と自分で自分に言い聞かせるという姿勢に変わって言ったのである。(私が笑う時口元を手で覆う癖も、恥ずかしいとか両サイドの髪の毛で顔を覆う癖も、あの頃からの癖である。)

  さて現在。

私の顔は可愛いのです。誰がなんと言おうと、本気でそんなこと思ってないけど。でも可愛いのです。絶対美少女であり、美しいのです。日本人形上等であります。

  このように歪んでしまった私は、私が好まない女たちのことが大嫌いになったのです。悪口はいうし、晒しあげるし、それはもうひどいもので泣き叫んで恋人に「私以上に可愛い女の子なんているわけないでしょ!」と噛み付く。


 そんな私はクリームソーダのような顔でいたい。高級フレンチには勝てなくても、クリームソーダのように可愛がられて愛されたいのです。

そしてクリームソーダ越しの彼。クリームソーダ越しの存在。これ以上は語らないけど、そんな気持ち。


 (ところで「クリームソーダ越しの恋人」と名付けたこの文章ですが、こちらの名前の由来をご存知の方もいらっしゃるでしょうか。)