トビウオとお月様

電車の箱の中の喧騒は泣きたくなっちゃう

私の頭の中にはトビウオが住み着いて夜空色の海でいっぱいいっぱいなのに暴れるからいつもチャポチャポしてる。
綺麗な色の海なのに、トビウオが暴れるせいでいつも静まることがなくて、でもいつも大荒れなわけでもない。
トビウオは一匹しか住んでいないから、きっと寂しい。
対する私はいつも世の中私の思い通りにいかなきゃやだやだと、泣いちゃう。
でもあんまり泣いてばかりだと、頭の中の海がいっぱいいっぱいになって、トビウオが自由に泳げなくなってしまうから、ちゃんと笑顔を混ぜてキラキラの紫をそっとまつげからふるい落とす。
海の底には一体何があるんだろう。
きっと海の底は宇宙と同じで終わりがない底なしなんだと思う。
永遠に続く海に一匹だけ残されたトビウオは毎日何を思って泳いでるんだろう。
この海に朝が来ることはないから、トビウオは朝を知らない。
朝を知らないから太陽を知らない。でもそのかわりに、月は知っている。
トビウオが泣いちゃう夜はお月様の高さを羨む。羨ましくて一生懸命飛び上がるけど、月には届かないんだ。
そんなトビウオが私は愛おしい。頭の中にいるから直接見たことはないけれど、お互いにお互いを知っているんだ。

これは秘密なんだけど、私がいつものそりのそりと歩くのは、実はこの海が頭から溢れてトビウオが悲しまないようになんだ。